本書は公共政策及び科学哲学を専攻し、広く社会問題への提言を行っている京都大学こころの未来研究センター教授の広井良典氏の著書です。今後、日本だけではなく世界中の国が避けることが出来ないであろう少子高齢化人口減少社会をどうデザインしていくかを広く考察しています。
ただし、広井氏の元々の専門が科学史と科学哲学という点もあってか、やや概念的、抽象的、理念的方向へ寄っている感があります。本書の内容だけでは人口減少社会の概要が少しわかりずらい点もあるかと思われますので、まずは本書の内容に入る前に、私が考える人口減少社会についての概要を記述し、その後本書の内容について考えていきたいと思います。
第一章 人口減少社会についての概要
1、日本の超長期人口動態
図1. 日本の長期人口推移と予測(国土交通省「国土の長期展望」)
経済学における人口ボーナス理論
上図は日本の超長期人口動態を示しています。ざっくりと見ると、明治維新時の3300万人から2004年の12700万人までの急激な人口増加と、2004年を頂点として2100年の4700万への急激な人口減少が目を引きます。なぜこのような急激な人口の増加と減少が、250年ほどの間に起こるのか、その原因を次の章以降で簡単に考えてみたいと思います。
2、人口学における人口転換理論
社会科学の一分野として、人口の増減を研究する人口学という学問があります。人口学では近代社会における人口の増減のメカニズムを人口転換理論という理論を用いて説明しています。社会の近代化とともに多産多死から少産多死へと移行していくプロセスを説明する理論ですが、その人口転換理論を用いて日本の人口動態について下記にて記述します。
このように人口転換理論は、近代化という大きな潮流に様々な要因が絡み、多産多死から少産多死へと移行していく過程を理論化しています。では次に少子化の原因について少し詳しく検討してみましょう。
3、少子化について
wikipediaより引用
(出典:経済のプリズム「戦後の日本の人口移動と経済成長」縄田康光)
少子化の原因は多岐に渡り、一概に言えるものではありませんが、ここでは3つ取り上げたいと思います。
(1)高学歴化・・・先ほども述べましたが、近代化が進むにつれ、労働集約産業から知識産業へ移行し、学歴社会化することで教育費が高騰するというメカニズムが発生します。これが少子化の最大の要因と言えると思います。
(2)自己実現・・・社会が発展するほど、選択肢の増加、選択の自由、行動の自由が増えていきます。その結果、人生のリソースを家庭に注ぐ割合は相対的に漸減していくと考えられます。結婚して子供を育てるだけが人生ではないという考え方も社会の中に芽生え始めます。
(3)非婚化・・・ここでは多くは記述できませんが、上述の複合的な要因により、婚姻率も漸減していくと考えられます。(関連記事参照)
このように少子化は様々な要因が相互作用を起こして、徐々に進行していくと考えられます。ここで一つ個人的に強調しておきたいことがあります。少子化の原因を「若者の経済的困窮」に求める風潮がありますが、上記のデータを見てもわかるように経済が右肩上がりの20世紀後半に、出生率は右肩下がりとなっていることを考えると、単純に若者の経済的困窮だけに原因を求めるのは難しいのではないかと考えます。確かに金銭問題や経済問題が少子化の要因の一つを構成していることは間違いありませんが、原因を金銭問題や経済問題に単純に一元化することで、問題の本質を見誤ることになるのではないでしょうか。その点は留意が必要と思います。
4、貧困化、無縁社会
これらのプロセスを経て、たどり着いたのが現在の社会です。20世紀後半から21世紀初頭までの経済的繁栄を謳歌した末の残渣が少子化、高齢化、無縁化、貧困問題として社会で表面化しつつあります。その社会を今後どうしていくのか?その点を次の章で「人口減少社会のデザイン」を通して検討したいと思います。
(出典)2015年まで総務省統計局「国勢調査」2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)2018(平成30)年推計」(2018)
第二章 人口減少社会のデザイン
本書を貫くテーマは「コミュニティと縁」をどう再生するかという点になるかと思われます。20世紀の「成長、上昇、拡大」いう運動の中でエネルギーをすべて使い果たし、燃え尽き、粉々になりそうな社会の中で、アトム(原子)のように漂う人々をいかにコミュニティに包摂し、連帯と共助という輪の中に連れ戻すのかという点が著者の根源的テーマなのだと思います。
結局、コミュニティと縁の再生というものは、誰かがトップダウンで設計して出来るものではなく、一人一人の心の中に社会運動のように、市民運動のようにボトムアップで染み出る、湧き上がるものなのだろうと思います。本書は時に思弁的に、哲学的に、時に具体的に、人口減少社会をどのように構想していくのか、その指針を柔らかな光のように示しています。
ただ、本書の中ではこれからの未来に関して、あまり悲観的な話は出てきませんでしたが、これからの未来はそれほど楽観できないこともあるということは忘れないようにする必要があるかとは思いました。
(第一章を書くのに疲れて、第二章はおざなりになりました・・・w)