蟻の社会科学

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【86冊目】現代経済学の直観的方法 長沼伸一郎

現代経済学の直観的方法

現代経済学の直観的方法

 本書は主にマクロ経済を主題としており、マクロ経済にまつわる様々なテーマを論じている。私はリーマンショックで経済に興味を持ち、経済に関する本を多少は読んできたが、本書は今まで読んだ経済の本の中でも恐らくナンバーワンの出色である。
 「経済学者が100人いれば100通りの学説がある。」という言葉が示すように、経済学は掴みどころも答えもない学問と言えるかもしれない。マクロ経済学を静的で定量的な数理モデルだけで理解することは難しいと思う。なぜならマクロ経済学は、社会学社会心理学歴史学などとも広範囲でクロスオーバーしていて、他分野と重なり合う学際的な部分に関しては動的で定性的な概念モデルを駆使しないことには理解が難しいからである。マクロ経済学の中にニュートン力学のような静的な絶対的な法則を見出すことは難しく、常に変化し続ける動的な世界を後付けで理論化していく社会科学の宿命を背負った学問でもある。しかし、かなり抽象的なレベルではマクロ経済学の中に根源的で普遍的な法則の存在を見出すことも可能である。本書は長沼氏がマクロ経済のその根源的な法則を概念モデルを中心とした多様な表現で、経済のことを知らない人でもわかりやすく記述している。
 まず、アナロジー(例え話)を用いたモデルによる説明がとてつもなくわかりやすい。第一章の「資本主義はなぜ止まれないのか」においては「Y(国民所得)=C(消費)+I(投資)」というマクロ経済の根源的モデルを様々なアナロジーを用いて解説している。また第6章においては、これもマクロ経済の根源である信用創造を巧妙なアナロジーを用いて説明している。その他にも、「貿易」「ケインズ経済学」など経済学の根幹をとても分かりやすいアナロジーで説明している。
 そして最終章では資本主義の矛盾と今後の世界について、物理学のアナロジーを用いた重層的な思想を展開している。アダムスミス以来、欲望のままに利己的に生きることが社会に最大幸福をもたらすという「古典的な合理的経済人」が作り出したこのディストピアを「縮退」という概念を用いて鋭く分析している。もちろん、資本主義の矛盾と今後の世界についての答えなどすぐに出るものではないが、本書を読むことでその答えを見つけるための扉がほんの少し開くのではないだろうか。
 著者は経済学の専門家ではなく、数学物理の専門家である。本書を経済学の専門家が読めば突っ込みどころがたくさんあるのかもしれない。しかし、そのようなことは枝葉末節で些末なことではないかと思う。経済学をこれほどわかりやすく表した仕事に賛辞を送りたい。

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【85冊目】新版 論文の教室 戸田山和久

 社会で生きていると何かしら長い文章を書かなければいけない時もあるかと思います。しかし、多くの人は学校で文章の書き方を習った記憶は遠い過去のものとなっていたり、そもそもそんなことを習ったかどうかも定かではない、ということもあるかと思います。(僕も文章の書き方を全くわかっていません。)本書は科学哲学者の戸田山和久氏が大学生向けに論文の書き方を面白おかしく、そしてわかりやすく説明しています。
 
 本書の内容を簡単に箇条書きで下記に書きます。

・論文の骨格を構成するのは下記の三点である。 
①問題提起 (問題の提示、問題の説明、問題の背景、問題の重要性、問題の分析)
②主張 
③論証  (様々な論証の種類がある。)

・論文の構成要素は下記の五点である。
①タイトル、著者名、所属機関
アブストラクト(簡単な概要の説明、論文の目的、調査方法、調査対象)
③本体 (ここで上記の①問題提起 ②主張 ③論証が詳しく論述される。)
④まとめ
⑤注、引用、参考文献

・論文を書く時は、アウトラインを最初に作る。(目次、全体の構成、論文の設計図を最初に作る。)

・次にわかりやすいパラグラフをアウトラインに当てはめていく。(部分を作成し、全体像にあてはめていく。
  
 以上が本書の概要になるかと思います。何か文章を書く際には、本書がとても良い参考書になるのではないかと思います。

トゥールミンモデル

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 科学哲学者のスティーブン・トゥールミンが、論証のパターンの枠組みのもっとも基本的な形として表したのが上記のトゥールミンモデルです。データや事実から根拠を抽出し、別のデータで裏付けつつ主張へ至るプロセスを骨子とし、そこに限定子(可能性)や反駁をぶつけて論証の全体像を構成しています。
 何かを考えるときに重要なのはこのような枠組み、モデルを使いこなすことではないかと思います。一定の型枠に思考や情報をはめ込むことによって、洗練された論証になっていくのではないかと思います。

 下記のモデルは私が考えた適当なモデルですが、参考までに載せておきます。


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【84冊目】図解雑学 構造主義

構造主義 (図解雑学)

構造主義 (図解雑学)

  • メディア: 単行本

 20世紀を代表する思想である「構造主義」の発生から「ポスト構造主義」への変遷を、古代ギリシャ哲学、近代哲学、または構造主義とクロスオーバーする様々な思想を交えながら解説した良書です。
 20世紀中盤、ある哲学者と文化人類学者の間で論争が起こりました。人間の理性と主体性を強調する実存主義の哲学者サルトルに対して、この世界に存在する目に見えない「構造」が人間の思考をある程度規定して影響を与えているという、客観性と全体性を強調する構造主義文化人類学レヴィ・ストロース。この論争はレヴィ・ストロースが勝利することとなり、構造主義はやがて20世紀の思想の主役に躍り出ました。20世紀後半になると、構造主義のどちらかというと事象を静的に考えるアプローチに対して、事象のダイナミズムを重視し、柔軟な動的アプローチで構造主義を乗り越えようとするポスト構造主義が現れて現在に至っています。
 20世紀の哲学の概要を歴史的背景など多角的に初心者向けにわかりやすく解説しているのが本書です。哲学初心者の私は初心者向けの本を結構読みましたが、本書は近現代の哲学への導入としては一番わかりやすい本なのではないかと思います。

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とりあえず金を刷るしかないのかな?

 現在のコロナ禍へ経済的な対応として国民一人につき10万円の定額給付金が給付されています。それを踏まえて、軽めに意見を書きます。
 今回のコロナ禍以前から中間層以下の所得が落ちていることはデータから明らかでした。長期的に労働分配率が右肩下がりで、資本家への分配が多くなり、労働者への分配が減っています。
 少子高齢化が進み国民の平均年齢が上がっていき、投資意欲は衰え、住宅や車などの消費意欲は長期的に逓減し、将来に備えて貯金をする人が増えていくという過程の中で、経済の成長が伸び悩み、労働分配率も徐々に悪くなっていく。ざっくりとはこんな感じでしょうか。この流れはもはや短期的には止めることは無理だと思います。
 では、国債を刷り、中低所得層へのバラマキ給付を増やしたら、消費意欲が回復し経済は成長するのかというとそれも難しいかと思います。中低所得層に定額給付金を毎年給付し、中低所得層が市場で消費しても、結局その金は巡り巡って最後は資本家の口座に積みあがっていくだけで、市場での金の回転率はあまり上がらないのではないかと思います。
 これは社会構造の長期的な硬直化が引き起こしている問題であり、政府のバラマキが足りないとか、資本家の強欲が格差社会を生み出している、などそういう視点だけで語れる問題でもないと思います。
 金を刷りまくればいつかはインフレに転じるでしょうが、その時は国債の暴落とキャピタルフライトを起こして、強烈な円安と制御が困難なスタグフレーションを引き起こす可能性も十分あると思います。
 
 しかし、とりあえずは今は金を刷るしかないと思います。世界中の政府が金を刷って、強引にでも経済を回していくしかないだろうと思います。その先にあるものが何かわかりませんが、今は目の前の問題に立ち向かうしかないのだろうと思います。
(ひょっとしたらどれだけ金を刷っても短期的には大きな問題にならないかもしれないと最近思うようになりました。資本の逃避が金融問題を引き起こすのであれば、もはや金持ちの口座以外に地球上に資本が逃避する場所がなくなっているような状況では、短期的には問題が発生しない可能性はあるなと考えるようになりました。)

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