蟻の社会科学

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【92冊目】ビジネスの未来  山口周

 著者の山口氏はコンサルタントとして活躍し、近年はビジネスという枠組みを飛び出して、資本主義後の社会への展望へ軸足を移しているかのように見受けられます。今回の著書の帯には「新しい時代を創るために資本主義をハックしよう」と書かれていますが、資本主義を真正面から批判的に解釈し、正に資本主義後の社会が目指すベクトルを構想しています。
 前半で私の言葉と見解を交えながら本書のサマリーを書いて、後半に私の意見を書きたいと思います。

はじめに
 「ビジネスはその歴史的使命をすでに終えているのではないか?」という疑問を持ったのが本書の執筆のきっかけである。答えはイエスである。産業革命以降続けられてきた「物質的貧困を社会からなくす」という使命は、先進国においてはもはや役割を終えている。その点と今後の社会について後の章で記述していく。

第一章 私たちはどこにいるのか?
 近年の日本の社会に関してのデータを見てもわかる通り、生活満足度は高止まりし、経済成長率は日本だけではなく先進国全体で右肩下がりとなっている。私たちはこれ以上成長の余地を残していないまでの物質的豊かさにたどり着き、文明化というプロジェクトを達成した「高原社会」に到達したと言えるのではないか。
 今日、私たちの社会では様々な問題や軋轢が生じているが、これは低成長がもたらしていると考えるより、「成長を前提とした社会システム」と「高原に軟着陸しつつある社会」が不整合を起こしていると考えるのが自然である。私たちは「文明開化以来の無限の上昇、成長、拡大を求めようとする強迫観念」と「現在の高度を下げて軟着陸しようとする自然の引力」の二つに引き裂かれており、この「引き裂く力」が様々な悲劇と混乱を生み出している。

第二章 私たちはどこへ向かうのか?
 これまでのいわゆる「ビジネス」は、モノやサービスをカネと交換して利益が出る範囲の中の問題を中心に解決してきた。利益が出る限り何でも行うが、利益が出ない限り何も行わないという「経済合理性限界曲線」の内側の問題がビジネスの中心だった。しかし、基本的な需要も供給も飽和した高原社会に達した先進国では、ビジネスの範囲も以前ほどは拡大するのが難しくなってきている。今後は、これまでの「社会に不足している普遍的な物質的不足をビジネスの重厚長大なパワーで解決する。」という方向性から、「経済合理性限界曲線の外側の普遍性の低い個別的な問題や精神的な飢えを小規模な組織や集団が解決する。」という方向へ変わっていくだろう。
 現在の社会は「見栄と優越」「無限の欲望の喚起」という資本主義のエンジンの回転数を自転車操業のように上げ続けている。それらを維持、達成するために私たちは現在を犠牲にして、未来のために幸福を先送りしている。そして、それらに伴う活動は全て金銭などの数値によって管理、支配されている。私たちは存在するかもわからないこのような「未来の幸福」のために現在を犠牲にするのではなく、もっと「人間性に根差した衝動」と「今」に基づいた行動に変わっていくべきではないのだろうか?

第三章 私たちは何をするのか?
 物質的不足を埋め合わせるための消費と生産活動ではなく、もっと「文化的価値」のある、精神的充足を目指す活動へシフトしていくのがいいのではないか。金銭を介した「消費」や「購買」という交換活動は、人間性に根差した衝動、言い換えると感情や感性に基づいた「贈与」や「寄付」や「応援」という方向性へ変わっていくのではないか。
 機械のように冷たい回転を続ける資本主義という「鉄の檻」から人間らしい感情や衝動を取り戻し、瑞々しい社会を築き上げていくのは、ほかでもない私たち一人一人である。

 私の言葉を交えたサマリーですが、かなり本書の内容を曲解しているかもしれませんが(汗)、大意と方向性はそれほど違わないと思います。
 著者が言う通り、恐らくこれ以上社会が豊かになるのは難しいのではないかと私も感じます。永遠の命、恒星間宇宙旅行、タイムマシンなど開発されれば、まだ経済は拡大するのかもしれませんが、現実レベルではこれ以上物質的に豊かになるのも難しいのではないでしょうか。しかし、永遠の成長という宿命を背負った資本主義社会を維持するためにはどういう形であれ、経済的拡大を目指すしかありません。大きくなりようがないものを無理やり拡大させようとする中で、過労死やパワハラ、正規と非正規の格差問題など様々な労働問題が生じ、幸福感と下手をすれば人間としての尊厳さえも棄損しているのかもしれません。
 筆者が言っていることはもっともで、特に反論もありませんが、問題は具体的にどのようにしてこのような社会を実現するのかという手段の問題になってくると思います。私には特に具体策は思いつきませんが、非営利的活動いわゆるNGONPOの活動が重要になってくると考えています。「子ども食堂」「フリーマーケット」「クラウドファンディング」など、営利を全く目的としていないわけではないが、「営利より、その活動そのものに価値を置き、かつ安価に利用できるサービス」というのが、今後の経済において大きな役割を果たしていくのではないかと考えます。
 遠い将来、社会全体がそのような方向性へ舵を切る時、本書が示すベクトルが社会的ドメインになってくるのではないかと感じます。

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