蟻の社会科学

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【58冊目】入門経済思想史 世俗の思想家たち ロバート・L・ハイルブローナー

スミスにはじまりマルクスケインズシュンペーターと続く経済学の巨人たち。彼らが遺した経済思想とは、どんなものだったのだろうか。彼らはみな、経済的な分析技術の発明者というよりは、自分を取り巻く現実の経済社会と切り結び、人間の営みの本質を「ヴィジョン」として描こうとして「世俗の思想家」であった。(本書巻末より引用)
 1953年初版、2017年現在60年以上読まれ続けている経済思想史のロングセラー。経済学が生まれる以前の社会、経済学が生まれた背景、アダムスミス以降20世紀までの経済学者の経済思想の概要を、社会背景と巧みに織り交ぜながら説明しています。「入門」の言葉通り、経済のことがよくわからなくても歴史に名を遺す経済学者たちのヴィジョン、思想、物語に触れることが出来る本です。

 経済学が生まれる以前の社会(18世紀以前)は支配者と被支配者が伝統に従って生きる極めて固定的で具体的な社会でしたが、18世紀に需要と供給のメカニズムが支配する流動的で抽象的で非人格的なマーケットと経済学が誕生しました。

 本書では経済学が生まれた背景を

1、ヨーロッパにおいて国家的政治単位が徐々に出現
2、ルネサンスで宗教的精神が薄れてきた
3、物質的な側面において大きな変化の潮流
4、科学革命、産業革命、技術的発明、科学的好奇心

上記の4つとしています。ルネサンス以降の社会の変化の蓄積が18世紀に産業革命の華を開かせ、同時に社会から切り離され抽象化されたモデルとしての経済学を誕生させたと説明しています。アダムスミス以降、「抽象化された理論とモデルと数式を用いた正統派経済学(スタティック派(静学派)、抽象派)」を縦糸として「人間や社会は理論や数式だけでは表せないよという非正統派(ダイナミック派(動学派)、具体派)」を横糸としてつむぎながら今日に至るのではないかと本書を読んで考えました。
 近年、極度に抽象化された数理モデル金融工学という名で暴走したり、モデルに手を加えることで現実社会をコントロールしようとするアベノミクスが生まれたりしていますが、経済が抽象化されて社会から切り離された250年前に理論と現実が大きく乖離する社会の誕生が運命づけられていたんだな・・・と思います。

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