蟻の社会科学

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【47冊目】中世の星の下で 阿部謹也

 僕は歴史の本を読むのが結構好きだ。と言っても織田信長やナポレオンのように一時代を彩った英雄の物語ではなく、日欧問わず中世の農民の暮らしや近世の商人の話など地味な本が好きだ。
 なぜ歴史の本を読むのが好きかというと、第一には現代について考えるため。僕たちが生きている現代社会について考えるときに、比較対象がないと今のこの社会を考えることが出来ない。歴史というのは言わば鏡のようなものだ。現在を考えるために過去と対比することで、初めて現在を客観的な視点で考えることが出来る。対比するものが無ければ現在を客観的視点から捉える材料がなく、「今を今として」しか捉えられない。
 第二に歴史は繰り返すと思うから。どんなに時代が過ぎようと人間の根底にあるものはそうそう大きく変わるものじゃないと思う。きっと数千年前、数百年前に現代の人と同じような悩みを持った人たちが歴史に存在したと思う。有名な話では数千年前のエジプトの粘土板に「最近の若い者は・・・」と記載されていたとかいないとか。人は何千年も同じことを繰り返しているんじゃないだろうか。繰り返す歴史の中から人の考えの普遍的なものを読み取れればと思う。
 僕は社会を作るのは庶民の心理と行動の蓄積だと思っているので庶民の歴史を読むのが好きだ(いわゆるアナール学派、民衆史観的な)。歴史を彩り、引っ張ってきたのはクレオパトラやシーザーやキリストやレオナルドダヴィンチやナポレオン、聖徳太子織田信長徳川家康など綺羅星のごとき人達なのは間違いないけど、現実に社会を構成し運営してきたのは名もなき市民たちだ。その市民の暮らしと心こそがまさに歴史の土台となると思っている。阿部謹也先生の視点は正に名もない市井の人と人との目に見えない絆にスポットを当てている。
 本書は「石の話」「七つの遊星(太陽、水金火木土星、月)によって支配される中世の世界観」「川と橋の話」「涙」「煙突掃除人」「狼」「ビール」「鐘」などを題材として実にバラエティ豊かに中世の市民の生活と心をイキイキと伝えている。
 11世紀〜15世紀にヨーロッパでは都市が次々誕生し、都市の誕生はやがて貨幣経済を発達させ、今に至る資本主義の萌芽となった。同時に貨幣経済が発達する中で人々は「既得権」を守るためにギルド、ツンフトを結成し既得権を守るための努力を必死になって行っていた。ギルド、ツンフトは利権団体として、また構成員の運命共同体として存在していたことが本書を読むとよくわかる。そしてその利権の構図は今の日本社会でもあてはまることがよくあるなと思った。
 本書の素晴らしさをここで全て書くことは難しいが、歴史を知るためには大局的な視点だけではわからないことがあり、歴史をミクロ視点で見ることの有用性をこの本は確認できる。

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