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7万年前、人類の文化的大躍進のキッカケとなった「認知革命」が起こったと考えられています。それに関わると考えられる「言語の再帰構造」に関する記事が面白かったので、簡単に紹介したいと思います。
本文に「洞窟壁画、住居の建設、副葬品を伴う埋葬、骨製の針などにみられる道具の専門化など、現生人類の想像力を彷彿とさせる「文化的創造性」は、7万年前よりも以前には発見されていない。」と記載されています。7万年前より以前は、人間の精神の豊かさを示す考古学的な物証が極めて乏しいらしいのですが、7万年前以降は人間の精神の豊かさや、高い精神性に基づいた文化の物証が大幅に増加したというところが興味深いです。そのキッカケとなったが脳の前頭前野の突然変異による「言語の再帰構造」の出現であると本記事で紹介されています。
再帰構造を簡単に説明すると、言葉を入れ子で構成する構造のことです。下記にて例文を示しますと
「「太郎が外出した」と次郎が話していた」と三郎が言った。
このように一つのセンテンスを別のセンテンスで修飾し、入れ子状に複数重ねることを「再帰構造」と呼びます。(極めて大雑把な説明で正確な説明ではありません。)
言語の再帰構造の出現により7万年前の人類は、この世界の出来事を、より複雑に考えたり説明したりすることが出来るようになり、処理できる情報量は、言語の再帰構造を手に入れる以前より爆発的に増加したと考えられます。
一つのセンテンスが入れ子構造により長くなることで、より簡潔に意思を伝えるために、複数の語の意味を統合した「抽象語」が生み出されて使用されるようになり、人類の抽象的思考力が高まっていったのではないかと考えられます。その抽象的思考力を用いることにより、目の前の現実から少し離れて、様々な想像やシミュレーションが出来るようになりました。やがてその想像力を駆使して、洞窟壁画や複雑な道具の作成など行うようになり、高い精神性を伴った「文化的創造性」へとつながっていったのだと考えられます。(注:ここらへんはフリン効果と絡めて考えると面白い)
20世紀、言語学者ソシュールや哲学者ウィトゲンシュタインの思想が「言語論的転回」という概念を生み出しました。言語論的転回とは「モノや事象が先にあって、名称を付けることで、それらを認識している」という考え方から、「先に名称を付けることで、後からモノや事象が存在するように感じる。」という、存在と言葉の主従を逆転させた考え方です。言語論的転回によると、言葉がなければこの世界にモノや事象は存在しません。語彙の量が増えて、言葉の抽象度が高まれば高まるほど、この世界に新しいモノや事象が増えていくということになります。
「言語論的転回」に基づいて考えると、人類は言葉を作り出すことによって世界のイメージやシンボルを増加させていき、言葉によって世界をより細かく分割していくことで、文化や技術や精神性を発展させてきました。その出発点が「言語の再帰構造」の出現であるという、この仮説に大きなロマンと説得力を感じます。