蟻の社会科学

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生産性について「説明」と「タスク管理」から考える


(コミポというソフトで作成しました)

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 人は脳のメカニズム上、簡単には克服しがたい苦手なことをたくさん持っています。会社に多くの人が集まれば、その苦手なことが蓄積されて集合体となり、会社全体の生産性を低下させる負のエネルギー源となります。 
 この記事では、脳の苦手なことから「説明」と「タスク管理」の二つをチョイスして、それが企業の中で「生産性」にどのような影響を与えているのか考えたいと思います。

人は「説明」が苦手
 脳が苦手なこと、一つ目が「説明」です。何かを説明するということは高い論理性を必要とする、かなり難易度の高い行為です。日々論文やレポートを書くような職業の人や、顧客にプレゼンを行っているビジネスマンなどは別にして、多くの人にとって説明は簡単にできることではありません。私も説明がうまくないので日々苦しんでいます。(;^_^)
 人が持つ「説明が苦手」という習性は、説明を行うという行為への挑戦そのものから遠ざけてしまいます。結果、情報やノウハウを他人に説明する能力が育まれることはなく、情報やノウハウは共有されることなく個人の脳の中にのみ蓄積されていき、組織として持つべき情報やノウハウは断片化していき、業務の属人化、生産性の低下を引き起こします。
 さらには、業務の属人化が進んだ会社では、「この仕事は俺しか出来ない!」「あの仕事はあの人がいないと出来ない!」と、属人化に対して間違ったプライドを持ったり、誤った方向で肯定する風潮が生まれることも多々あります。
 もちろん、属人性をすべてなくすということは出来ませんし、属人的でなければ出来ない業務もたくさんあるので、属人化が絶対に悪いというわけではありません。しかし、共通化、平準化出来るようなことまで属人化していると、会社の生産性にとって問題になるでしょう。

野球を知らない人にタッチアップを説明する 
 そもそも、説明するということはどういうことか。わかりやすく考えるために「野球を知らない人にタッチアップを説明する。」という例えをもとに、説明するということはどういうことかを考えたいと思います。
 野球を知らない人にタッチアップを説明する場合、説明される側は「野球」を知らないのですから、説明者は「野球とは何か」という最も基礎的な事項の説明から始める必要があります。しかし、野球を知らない人に野球の概要を説明し、野球のルールを説明し、タッチアップを説明して理解してもらうには、かなり多くの説明と時間を必要としますし、多くの項目を順序立てて説明する高い論理性も必要となってきます。
 ここで説明が苦手な人はどのようにタッチアップの説明を行うかについて考えたいと思います。説明が苦手な人は、野球を知らない人に対していきなり「タッチアップとはバッターが外野に打って、外野がボールを取ったら三塁ランナーがホームに向かって走ること。」というタッチアップそのものの具体的説明を始めてしまうことがあります。説明しなければいけない事項が多すぎて、どこから説明をすればいいかわからず、順序立てることもできず、コンテキスト(概要、大まかな流れ)の説明を省いて、いきなり説明すべきことそのものの説明を始めてしまうことがあります。
 当然、説明される側は野球を知らないのですから、このようにタッチアップの説明を受けても理解することは出来ません。しかし、説明が苦手な人は上記のような説明を以て「説明したので相手はタッチアップを理解しているはず。理解していないのであれば相手が悪い。そもそも野球を知らないほうが悪い。」と考える傾向も併せ持っています。
 説明する側と説明される側の認識のギャップは、多かれ少なかれどうしても生じることであり、避けることは出来ません。しかし、説明する側も説明される側も、互いに認識のギャップの原因を相手の責任として考えがちです。

企業での人材育成、業務分担、業務引継ぎ、ナレッジマネジメント
 このように、人が説明をうまく出来ないということで企業活動に悪い影響を与えるカテゴリーが、人材育成、業務分担、業務引継、マニュアルの管理などのナレッジマネジメントに関わる領域です。
 上記のように、人に説明することを重視しない企業では、冒頭で引用した「新人が定着しない職場の特徴「指導方法は見て覚えて。メモも取れない速さで話す。聞き返すとムッとされ無視される」」という人が定着せず、育たない企業になりがちです。
「一回しか言わないからな!」
「この間言ったよな!」
「自分で考えろ!」→「なんで聞かないんだ!」
「見て覚えろ!やって覚えろ!とにかく経験しろ!」
個人の脳内にのみ蓄積された記憶や経験や勘という暗黙の知を、口頭、口伝で語り継ぐという、原始時代以来の極めて古風で伝統的な知識伝達法が主流の企業は多いのではないかと推測されます。
 説明が苦手というのは、多くの人に当てはまることであり、必ずしもその人が悪いということではありません。しかし、現代社会はIT化が進み、物事に付随する情報量が指数関数的に日々増えていっています。莫大な情報を効率よく処理するためにも、「説明する」という能力はこれからますます重要になっていくのではないかと考えられます。

人は「タスク管理」が苦手
 脳が苦手なことの二つ目は「タスク管理」です。「タスク」とは端的に言うと「やること」です。この超高度情報化社会を生きる現代人は、仕事の上でも、プライベートでも膨大な「タスク」を抱えています。仕事では捌ききれないメールが未読のままに蓄積していき、一つのことが終わる前に三つの仕事が舞い込んでくる。プライベートでは家事や育児、家計の計算やローンの支払い、様々な契約の更新など、把握しきれないタスクによって毎日忙殺されています。
 しかし、悲しいことに、人間の短期記憶(ワーキングメモリ)はせいぜい4つしかなく、3~4つのタスクを抱えるとすぐにパンクしてしまいます。当然、タスクの数が3~4つで収まるはずはなく、多くの人は仕事やプライベート合わせて、数十、数百のタスクによって身動きが取れなくなっていることも多いのではないでしょうか。
 認知科学の研究によると、人間の脳は大量のタスクを抱え込むと「何をやるべきか?」ばかりを、重い気持ちのままに、答えも出ぬままグルグル考え続けてしまうそうです。わずか4つのワーキングメモリはそのことだけで占められて、実際の作業は行えなくなり、作業効率が ”壊滅的なまでに悪くなる” ということです。
 先ほどの「説明」という能力に加えて、この「タスク管理」も人の脳にとって先天的に苦手なことであり、タスクをどのように効率的に処理していくかは、多くの人にとっての難題ではないかと思います。

生産性と情報化社会
 企業の生産性に関わる問題の多くは、この「説明が苦手」「タスク管理が苦手」という上述の人の脳の特性に関係しているのではないかと考えております。もちろん世界には様々な職業や業務があり、一概に断言できることではなありませんが、この脳の特性を起因として、生産性の問題が発生していると考えられることはかなり多いのではないでしょうか。
 とはいえ「説明とは何か?どういうことか?」「タスク管理とは何か?どういうことか?」などを学校で勉強することもなければ、社会に出てから誰かが教えてくれるわけでもありません。現代社会では説明能力やタスク管理能力が求められているにもかかわらず、多くの人はそれを学ぶ機会すらほとんどないのが現状ではないかと思います。
 繰り返しとはなりますが、21世紀に入り、IT化が進み、人類が取り扱う情報量も複雑さも日々指数関数的に増加しています。反面、今後生産人口は減少し、一人当たりの労働負荷はますます高まっていくと考えられています。そのような時代を否応なしに迎えるにあたって、生産性の向上は避けては通れない喫緊の課題となってくると思います。
 その生産性の問題の根底には、人の脳が苦手とする「説明」と「タスク管理」の問題が潜在的に影響しているということを、ぼんやりと認識しておくだけでも、問題への考え方や対処法がより良い方向へ変わってくるのではないかと思います。
 ここまで生産性について書いてきました。生産性を向上させることはもちろん重要ですが、まずは個人の労働環境やワークワイフバランスの向上のために目指すべきことだと思います。企業の利益のため、業績のためだけに生産性の向上を目指すのであれば、それは何か本末転倒のような気もします。

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