蟻の社会科学

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【100冊目】LISTEN  ケイト・マーフィー

人の話を聞く
 人の話を聞くということは、ごく普通の日常的な行為であり、普段は取り立てて意識することもないこともないかもしれません。しかし、人の話を聞くということは実はとてつもなく難しいことでもあります。
 本書はニューヨークタイムスを中心に英米の新聞で活躍するジャーナリストであるケイト・マーフィーが「聞く」ことの重要性、または難しさを、様々なインタビューを通して得た知識や最新の科学論文などをベースに、多角的に論じています。
 「聞く」ということがなぜそんなに難しいのか。この問いは大きく分けて二つの理由があると思います。一つは「人の脳が持つ話を聞こうとしない習性」によるもの。もう一つは恐ろしいまでの勢いで発展する近年の情報化社会の影響によるもの。この二つによって、現代人は人の話を聞くという能力がどんどん衰えていっているのではないかと考えられます。
 本書の内容を私の言葉に変換しながら、考えていきたいと思います。


システム1は話を聞かない
 下記の図は私のブログから引用した人の脳と思考の関係を表したモデルですが、このモデルをベースに、人が話を聞かない原因の一つ目の「人の脳が持つ話を聞こうとしない習性」について考えたいと思います。

 人はその本質的な傾向において、上図のシステム1に無意識のうちに常に引っ張られています。人はどんなに努力をしてもすべてのことを知ることは出来ず、必ず知らないことが存在するのですが、多くの人はシステム1に引っ張られ「無知の知」を意識することは多くありません。手持ちの不完全な情報をもとに構成された自らの考えにかなり強い自信を持っています。よって、自らの考えに合致しない意見は基本的には聞きません。これは確証バイアスと呼ばれるものですが、人が持つ心の無意識の習性の中でもかなり強力な習性です。
 当然、自分の意見は正しいと無意識のうちに思っているので、人の話を聞くより、自分の正しい考えを相手に聞かせたいという習性も持っています。「人の話は聞かないけれど、自分の話は聞かせたい!」これは人類全体に当てはまる傾向性であり、必ずしも全員がこうだということではありませんが、私を含む多くの人がこのような習性を持っていると考えられます。
 これらの「話を聞かない習性」「話を聞かせたい習性」は人類が環境に最適化するように、数百万年かけて培ってきた一種の能力であり、良い部分も悪い部分も併せ持っています。しかし、近年の情報化社会がこれらの習性をますます強固なものにしているという点は、今後大きな問題となっていくのではないかと考えられます。

情報化社会によってますます話を聞かなくなる
 人が話を聞かなくなっている二つ目の理由である「情報化社会」について考えます。情報過多の社会で現代人は日々大量に配信される情報の洪水によって溺れそうになっており、大量の情報から必要な情報を取捨選択することはかなりの労力を必要とします。そのような状況では、人は情報の取捨選択をあきらめて、先の確証バイアスに基づいて、自分の考えに合致する情報だけを選択する傾向が強まっていきます。スマートフォンやパソコンによって瞬時に自分にとって都合がいい情報だけがすぐに手に入る環境に入り浸っている現代人が、スピードも遅く、自分にとって必ずしも都合のいいわけでもない他人の話を聞こうとしなくなるのは、ある意味必然なのかもしれません。

人の話を聞くということ
 インターネットの中の仮想世界で、人は自分の耳にやさしい情報だけを選択し、他人の話に耳を傾けることもなく、瞬時に白か黒かだけで拙劣な判断を下す傾向が強くなっていきます。そんな傾向を危惧する声は、近年様々なメディアから聞こえてきます。
 このような閉ざされた世界から抜け出すための蜘蛛の糸となりえるのは「人の話を聞く」ということなのかもしれません。自分と考え方も違い、インターネットのようなスピード感もなく、順序立ってもいない、そんな他人の話をさえぎることなくじっくりと聞く能力を磨き、その内容を咀嚼し、再構成し、理解を深めることによって、狭くて自分の都合のいい情報だけで構成されたシステム1の世界の外へ、自らを連れ出すことが出来るのではないかと思います。
 近年、教育の分野でも、互いの話し合いの中からINTERACTIVE(相互作用的)に新たな知識を創発するアクティブラーニングが重要視されています。自らの考えを論理的に構成して主張する能力は当然重要ではありますが、情報化社会によって日々衰えていっている「聞く」という能力も、新たな知識、新たな世界を拓くために重要であるということを本書を読んで再確認しました。

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