蟻の社会科学

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【99冊目】Dark Horse 「好きなことだけで生きる人」が成功する時代 トッド・ローズ

 本書は「型破り」のルートから成功した人々をDarkhorseと名付け、その共通点を見出し、今後の社会における「成功とは何か」を考える本である。
 フレデリック・テイラーを祖とする科学的管理法こそが、20世紀の西洋型産業社会を特徴づける方法論であることは間違いない。全ての作業をマニュアル化して「標準化」「規格化」することで、誰でも速く正確に作業を行えるようにすることを目指す方法論は、20世紀に華開いた大量生産大量消費社会の根底にあり、今日の豊かな科学技術社会を作り上げた思想と言えるだろう。
 何もそれが悪いというわけではないが、やがてその考え方は社会全般に及ぶようになった。教育分野においては規格化された枠組みの中での知識の暗記力を重視し、偏差値による「人間の標準化」を推し進め、さらにベルトコンベアに乗るかのように、いい高校、いい大学、いい会社に入り・・・という人生を目指すことが幸福であるという「標準化された人生モデル」さえも作り出した。
 そのような社会が「永遠に」続くというのであれば、「標準化された人生モデル」を目指すことが悪いことではない。ここで断っておくが、その「標準化された人生モデル」が単純で平凡でつまらない人生であると言いたいわけでは決してない。問題は21世紀に入り、その標準モデルが崩れつつあるという点である。その標準モデルを目指したくても目指せない、目指してもたどり着けなくなってきているという点ではないか。「標準化された人生モデル」というのは「ほどほどの幸福な人生を送るための単なる手段」であったはずなのに、最近では「標準化された人生を送ることが目的」となりつつあることが問題ではないだろうか。社会学の巨人マックス・ウェーバーは、近代社会の官僚主義による目的と手段の倒錯、及びその堅牢さ、頑強さを「鉄の檻」と表現したが、正にその「鉄の檻」に閉じ込められることを目的とさえしている面があると言えるかもしれない。
 本書では標準化、規格化された世界観を飛び出して「自分が好きなことをやる!」という考えのもとに成功した人々を様々な視点から描き出している。政治の世界を飛び出して掃除の世界で起業し成功を収めた女性、高校中退のシングルマザーでありながら星の観察をとことん追求し、世界中の天文学者に一目を置かれるようになった女性など、通常のルートでは考えられない方法で成功した人々を多数紹介している。そこに共通しているのは「好きこそものの上手なれ」ということになるであろう。
 これからの世界がどうなるかはわからないが、標準化された社会が同じように続くと盲目的に信じることはもはや出来ないのではないか。自分が好きなことをやれば成功できるとは限らないし、むしろ成功の可能性は低いかもしれないが、少なくとも標準化された世界のみを盲目的に信じるのではなく、自分の好きなことは何なのか、自分の強みは何なのか、そういったことに目を向けることも、これからの変化の大きな時代を生きていくうえで重要になってくると思う。本書の中でも書かれているが、教育もこれから変わっていかなければならない。人の能力というのは人それぞれ違っていて、画一的に測定できるものではない。規格化された知識を詰め込むのではなく、人が持つ好奇心や特性を引き出すような教育もこれから必要になってくると思われる。
 現代社会批判からDarkHorseたちの具体例、これからの労働観、教育観まで幅広く概観できる本となっている。

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