
- 作者:佐伯 啓思
- 発売日: 1993/06/16
- メディア: 新書
著者が本書の中で述べているように、「資本主義」という言葉の語感にあまり祝福されない要素が含まれているような気がする。人間の感情を超えた非人間的で合理的な拝金主義という負のニュアンスが、「資本主義」という言葉に含まれている気がするのは僕だけではないだろう。本書は資本主義のエッセンスを極限まで圧縮し、その祝福されない「資本主義の歴史」「資本主義の根底」「人間の欲望」を明らかにする名著であると思う。
資本主義の本質は未来からの借金であり、 "未来から借金し続け、未来からの借金を返し続けるプロセス" こそが資本主義の根源的なエンジン"である。即ち、"永遠無限の拡大再生産" を続けることが原理的に資本主義存続の絶対条件となっている。そして、その燃料は人々の欲望であることは言うまでもない。
その拡大のベクトルを「外へ向かう資本主義」と「内へ向かう資本主義」として本書で説明している。外へ向かう資本主義とは、量的な拡大を含むマーケットの拡大のことである。グローバル資本主義によって地球上で世界経済の影響を受けない地域はほとんど存在しないだろうと言えるほどマーケットは拡大した。例えばアフリカのサバンナに暮らす民族がスマホを持っている映像などを見ると、グローバル資本主義のマーケットの拡大がとどまることが無いことを実感できる。
内へ向かう資本主義とはマーケティングにより細分化しパーソナライズすることにより人々の欲望を掻き立て新たな需要を作り出すことである。例えばコンビニへ行くとレジの前には数百種類のタバコが置いてある。他にも飲み物やお菓子などのコーナーにも何十種類もの製品が置いてある。車一つ取ってみても、グレード、色、オプションなどの組み合わせは数十種類になるだろう。職業図鑑というサイトを見てみると多様な職業が記載されていて、もはや想像もつかないような仕事がこの世にたくさんあることがよくわかる。内へ向かう資本主義により製品もサービスも極限まで細分化されながらマーケットは拡大している。
このように外側と内側ヘ向かう資本主義の拡大により永遠無限の拡大再生産を続けてきたのであるが、このフロンティアの終わりなき拡大運動を今後も永遠に続けていくことは可能なのだろうか、というのが著者の問いとなっている。フロンティアを外側へ内側へ拡張を続けても、いつか限界に到達し「均衡状態」に陥る時がくるのではないだろうか。その時僕たちはこのベクトルをどの方向へ向ければいいのだろうか。もちろんこの問題に答えなんてないけれど、それを考えるために必要な刺激を本書は与えてくれる。