今年読んだ中で一番面白かった本。物理学、経済学のノーベル賞級の学者達がいわゆる「複雑系」という学問を立ち上げる経緯から、そこから生まれた複雑系の考えまで広く浅く網羅的に知ることが出来る、正に知的興奮を呼び起こすサイエンスノンフィクション。複雑系への入門書として非常に面白い本だと思います。(700頁弱のボリュームが手ごわく、内容も冗長な部分がありますが)
近代合理主義の根幹の一部を成す「還元主義」。それはタレスの「水」から始まり、プラトンのイデア論、近代のニュートン力学やデカルト的機械論へと連なり、現代では「経済学」「素粒子物理学」「宇宙物理学」などへ広がり様々な分野で花開き、今なお世界中を覆い尽くす巨大なパワーとして君臨し、成長し続けています。
複雑系とは何か?「還元主義」による一元論では語れない要素を考える学問なのか?例えば未知の事象「ハテナ」があったとして、その「ハテナ」を構成する要素は「x」と「y」と「z」に分解、還元できるとして・・・さらに「x」は「a」と「b」へ分解し・・・「y」は「1」と「2」へ分解し・・・「z」は「いろはに」と「ほへと」へ分解し・・・以下無限に分解可能・・・。「未知の事象ハテナ」を詳細に分解し、全容を明らかにすることは可能かもしれませんが、【「未知の事象ハテナ」を構成する要素が何故「x」と「y」と「z」なのか、何故「x」と「y」と「z」が生まれたのか?その理由】を考えるのが複雑系なのか・・・?!
社会は本当に複雑です。これからの社会を考えていくためには還元主義による一元論の静的均衡状態を考えるのではなく、動的不均衡状態から絶えず生まれ続ける新しい「力」を考えて行かなければいけない。「複雑系」という科学は、現実社会にも思想の世界にも、新たな地平を開く科学なのかもしれません。一時の複雑系ブームからかなりブームは落ち着いたようですがそれでも複雑系の考え方に心を惹かれます。

複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち (新潮文庫)
- 作者: M.ミッチェルワールドロップ,Mitchell M. Waldrop,田中三彦,遠山峻征
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2000/05
- メディア: 文庫
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