蟻の社会科学

自由に生きるため、この世界を知ることを目的としたブログです。ビッグヒストリーを縦軸に、リベラルアーツを横軸に、システム思考を最適化ツールとして。興味を持った方はガイドラインからどうぞ。内容は個人的見解です。email:arinkoblog@gmail.com

【36冊目】ハーメルンの笛吹き男 阿部謹也

 我々日本人が考える中世ヨーロッパの世界。それはドラクエなどのRPGの世界のような、牧歌的で豊かな社会を思い浮かべるかもしれませんが、現実は庶民が非常に苦しい生活を送る時代という側面が強いようです。ドイツの都市ハーメルンで1284年6月26日に子供130人が笛吹き男に連れ去られ、行方不明になったとされる「ハーメルンの笛吹き男」の伝説。この寓話がどのようにして生まれ、そして後世に伝わったのかを中世の庶民の苦渋の生活を土台として展開する、阿部謹也氏の歴史研究書です。
 中世の土地を支配していた教会や領主。都市の中には閉鎖的なツンフト(ギルド)が存在し、貨幣原理が貫かれつつある社会の中で二極化する富裕層と貧困層。現代よりすさまじい格差社会階級社会の中で生きる下層の人々は差別の中で、見えない明日を考えることさえやめてしまったのかもしれない。
 そのような中世の社会の中の恵まれない人々の心理が蓄積され「ハーメルンの笛吹き男」という伝説を紡ぎ続けたという「視点」こそが本書のエッセンスかと思います。阿部先生の推測が正しいのかは判断はつきませんが、人々の心理の蓄積こそが社会を作り上げるという「視点」は非常に重要だと思います。
 我々が生きる現代も、政治や経済だけが社会を作っているのではなく、人々の心理の蓄積こそが社会を作っているということを改めて考えさせられました。

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)