蟻の社会科学

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【78冊目】人口減少社会の未来学 内田樹編

人口減少社会の未来学

人口減少社会の未来学

 このブログは素人が社会について考える社会科学風味のブログであります。現代社会を、経済学や歴史哲学を横断しながら、俯瞰、敷衍するブログなのですが、近年は認知科学の記事ばかりで社会についての記事が疎かになっています。今回は私が社会を考える上での骨子となっている人口減少について、本書を参考に久しぶりに記述したいと思います。
 本書は9人の有識者の寄稿を元に内田樹さんによって編集されています。社会学系の学者だけではなく、建築学者や経済学者やコラムニストなど様々な有識者の意見をまとめています。これからの社会を考えるときには社会学者の視点だけではなく、様々な分野の人の意見を多角的に参考にして考えないといけないということを改めて認識しました。
 
 まずはこれから21世紀の日本社会が向かう人口減少の実態について考えたいと思います。様々な推計がありますが、これから約80年後の2100年には日本の人口は約5000~6000万人と推計されています。現在の1億2000万人から、これからの80年で6000万人~7000万人の減少する見込みです。80年でこれほどの人口が減少するというのは、人類史上どの国も経験したことが無い未曾有の事態です。産経新聞では少子高齢化を「静かな有事」と表現していましたが、これは有事どころではなく「静かな惨事」と表現することが出来るぐらいの事態です。地方の小都市は限界都市として都市機能を維持できなくなるところも出てくるでしょう。その他、インフラの老朽化や労働力の減少による様々なサービスの低下など、予測することが出来ない事態が次々と起こると思われます。
 このような惨事がそれほど遠くない未来にまで迫っている、いや、もはや目の前にまで迫っているのに、社会全体でその認識が希薄であることは不思議であると言わざるを得ません。人間は基本的には、嫌なこと、自分の考えと違うこと、知りたくないことは無視して、自分が好きなこと、考えたいことだけを考える傾向があります。このような切迫した事態であるにも関わらず、どこかで社会全体が希望的観測にすがっている面があるのは否定できないのではないでしょうか。「子供が減少したのは景気が悪くて若者が貧困だからであり、景気が回復して経済が成長すれば少子化も解決する。」という素朴で単純な意見や、「国が婚活対策や少子化支援を行っていればいずれ少子化は解決する。」というピュアで牧歌的な意見が社会の中で一定の幅を利かせている点を見るだけでも、社会の中でまだまだこの来るべき惨事への認識が薄いと言えると思います。(例えば、景気が良くなれば出生率が回復すると主張する人は、戦後の高度経済成長に歩調を合わせるように出生率が右肩下がりで落ち込んでいったという事実や、先進国の出生率が低く後進国出生率が高いという事実に対して、どのような理論で景気や経済成長と出生率の因果関係を証明するのだろうか?)
 まず認識しておかなければいけないのは、どのような対策を行ったとしても、今後80年で6000万人~7000万人が減少するであろうという事実です。景気対策少子化対策、移民推進、その他諸々、どのような対策を行ったとしても、この現実を大きく変えることは出来ないであろうということをまず認識しなければいけないのではないかと思います。この事実から目を背け希望的観測にすがっている限り、この静かな惨事に対する有効な対策は打てないのではないかと思います。
 また、この少子高齢化による静かな惨事は日本だけに限ったことではありません。この問題の最先端を日本は走っていますが、やがて多くの先進国がこの問題に突入していきます。この問題は政治が悪いとか、経済や景気の問題ではないという認識が重要かと思います。経済成長を成し遂げた先進国全てに共通している現象なのですから、恐らく、ルネッサンスから今日までの近代社会から、現在社会の成立までの社会構造の中に内包されている複合的な問題であると考えることが妥当かと思います。
 考えたくないこと、知りたくないことから目を背け、その問題の原因を政治や経済問題に還元し、その政治問題や経済問題さえ解決すれば何もかも好転するかのような社会的風潮から一歩身を引いて、この社会について、この問題について、ひとりひとりがしっかりと考えなければいけないのではないかと思います。

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