蟻の社会科学~リベラルアーツとロジカルシンキング~

自由に生きるため、この世界を知ることを目的としたブログです。ビッグヒストリーを縦軸にリベラルアーツを横軸にロジカルシンキングを最適化ツールとして。興味を持った方はガイドラインからどうぞ。

【51冊目】ファスト&スロー(上)(下) ダニエル・カーネマン

「アダムスミスやフロイトの著作に匹敵する来たる世紀の新たな古典である。」ナシーム・タレブ(「ブラックスワン」著者)
コペルニクスが宇宙の中心から地球を放り出し、ダーウィンが人類が神の御業ではないと示したのと同じぐらいの重要性で、カーネマンは人間がこれまで考えられてきたほど合理的ではないと明かしたのだ!」エコノミスト
「世界観を変える21世紀の古典」池田信夫
 心理学者にしてノーベル経済学賞受賞のダニエル・カーネマンの一般向け代表的著作。上記の論評は誇張ではないと思います。正に知的好奇心の興奮と冒険!認知心理学の金字塔。個人的には人生のベスト5に入る名著です。

 人間には色んな人がいます。白人、黒人、黄色人、背の高い人、背の低い人、走るのが早い人、泳ぐのが得意な人、痩せてる人、太った人、肉が好きな人、ベジタリアンキリスト教徒、イスラム教徒、仏教徒、アメリカのウォール街でのし上がろうとする野心あふれる人、アマゾンの奥地で狩りをする人・・・。人それぞれ、見た目は違うし考えていることも違う。人の考えを規定するのは基本的にはその人が生きてきた時代(時間)、環境(空間)であると言えると思います。
 しかし手が二本、足が二本、目が二個、鼻が一個、口が一個、耳が二個などの基本的な構造は(ほぼ)全ての人間に共通です。同様に人それぞれ考えていることは違えど、人間に共通の「思考方法」「思考の癖」「思考の偏り」が存在します。人間の思考については古代ギリシャの哲学者たちから議論研究されてきました。そして人間の思考の癖を科学的に体系付けたのが過去数十年の脳科学者、心理学者、行動経済学者たちです。その一人がダニエル・カーネマンであり本書がその代表的著作となります。
 本書では数々の人間の思考の癖を取り上げていてここでは全てを書ききれませんが、端的に人間の代表的な思考の癖を記すと
「人間は自分が好きなもの、知っているもの、わかりやすいもの、思い出しやすいものを好む傾向がある。自分が知らないことや嫌いなことは否定したり軽視したりする。自分が好きなもの、知っていることだけを選択し、知らないことは否定し軽視してその存在自体を黙殺するので常に自分の考えや選択に対して自信満々である。人間が自分の無知を棚上げし自分の考えを過信しアイデンティティ保全する能力は計り知れない。」
 古代ギリシャの時代にソクラテスが論敵に議論を吹っかけて論破し、己が無知であることを相手に突きつけて「無知の知」を説きました。古代ローマ時代にはジュリアス・シーザーが「人間は人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。 多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない。」と述べました。古代より人は自らの無知や未知の事象に目を背けて、自分の知っていることや希望することだけを見てきたわけですが、近年の心理学者たちはその傾向を科学的に裏付け、体系付け、人間の思考について一つのマイルストーンを打ち立てたと言えるのではないでしょうか。その代表者の一人カーネマンを現代のソクラテス、現代のシーザーと位置付けたいと思います。
 ソクラテスはかなりの皮肉屋だったとのことですが、カーネマンも本書の中で人間の無知に対してかなりスパイシーな皮肉を投げかけています。人間の「無知」について研究を重ねた人は皮肉屋になってしまうのだろうか・・・?人間の思考の癖をメタ認知し、偏った思考に陥らず開かれた思考(オープンマインド)で世界を違う視点から見つめ、人生に贅沢なスパイスを加えるためには本書は最良の友となるのではないかと思います。