蟻の社会科学~リベラルアーツとロジカルシンキング~

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【41冊目】里山資本主義〜日本経済は「安心の原理」で動く〜藻谷浩介


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これからの社会システム
近代の末路〜浮遊する現代人〜
 久しぶりに書評を書こうと思います。約2年も書評を書いていなかったのか〜。
 この本を読んで最初に思ったのは「俺が書きたかったことが全部書いてある・・・。プロが書く本はアマの俺がブログに書く内容とは根源的にレベルが違う・・・」

 本書の概要としては、
【「食糧」「エネルギー」という人間の生活に必要なものの根源がグローバル経済と直結していて、そのグローバル経済の変調によって左右される非常に不安定な状態になっている。また、その不安定な状況こそが現代人の不安感につながっている。そのグローバル資本主義に左右される不安定な状況に包まれた現在の日本社会のカウンターパートとして半自給自足、コミュニティの共助を土台とした「里山資本主義」を現在の社会を補完するシステムとして展開して行こう。】
と言うことになるかと思います。
 俺自身が筆者と全く同じ考えであり、本書の内容に関して総論は賛成です。だからこそあえて自己批判も含め、本書の内容に対して批判的意見も書いてみたいと思います。

 
 そもそも資本主義のアンチテーゼとしての「自然回帰」の考えは今に始まった新しい考え方ではない。産業革命啓蒙思想の全盛期にもそのような考え方はあったし、武者小路実篤「新しき村」、「ヤマギシ会」、70年代ヒッピーの「コミューン」田中角栄日本列島改造論」も同じような思想の流れを汲むものだろう。
 しかしこれまでの「自然回帰的思想」は啓蒙思想」「資本主義」という超巨大なパワーの前には風前の灯のようなもので一般的には「左翼的(共産主義的)な自然を愛する人の同好会」というようなものとしてしか社会に認知されていなかったと思う。
 今までは社会で受け入れられなかった自由資本主義と相反するような主張がこれほど反響を生みベストセラーになったのか?やはりこれまでの資本主義社会が成長の限界を迎えて、さらに社会全体がそれに気付き始めているからではないだろうか。自分の人生の全てを自分が制御できない大きなシステムに委ねて生きることへの不安を社会全体で認識し始めたからではないだろうか。筆者も本書で述べているがこの本は50年後の社会(21世紀後半の社会)を見据えた哲学書的なものであり、今すぐ社会を変革できるような即効薬を提言する本ではない。本書の批判もよく見かけるが、そもそも短期的視点で本書を批判するのは少し批判の論点がずれているのではないかと思う。ただし、本書が「里山資本主義」のいいところだけを取り上げて都合の悪い部分を全く無視していることや、僕たちが享受している豊かな生活(医療、インターネット、コンビニなど色々・・・)は全て筆者が批判する資本主義から生み出され、資本主義なくして維持できないこと、現時点では日本人の多くは里山とは無縁な「都市」に住みながら仕事をしているので、里山と共存する暮らしに移行できる人は多くは無い点なども同時に留意しなければいけない。「里山資本主義」は現時点では資本主義の代わりになるシステムではなく、あくまで資本主義が存在していなければ「里山資本主義」が存在し得ないことも留意しなければいけないだろう。
 21世紀後半以降の自然と共に生きる豊かな社会のグランドデザインを考える本書は大変素晴らしい内容ではあるが、21世紀前半の困難な社会(多死社会、孤独死、インフラの老朽化、社会保障費の膨張、財政危機)など、僕たちが生きるあと数十年の困難に対しても目を背けず同時に考えていかなければいけないのだろう。 
(本書の最終総括での里山資本主義とはかけ離れたマクロ視点の資本主義批判は全くの蛇足ではないだろうか?)