蟻の社会科学~リベラルアーツとロジカルシンキング~

自由に生きるため、この世界を知ることを目的としたブログです。ビッグヒストリーを縦軸にリベラルアーツを横軸にロジカルシンキングを最適化ツールとして。興味を持った方はガイドラインからどうぞ。

【30冊目】アダム・スミス 堂目卓生

 古典を読む時、いきなり岩波文庫を読んでも俺のような初学者には理解出来ない。本書のような入門書こそが古典への入り口となると思います。2008年サントリー学芸賞を受賞した本書を手掛かりに「経済学の祖 アダム・スミス」について考えてみたいと思います。


「(神の)見えざる手」

 経済学の祖と言われるアダム・スミスと言えばやはりこの言葉です。「利己心によって個々人が営利を追求することが、やがては社会を幸福にする。」という思想がアダム・スミスの代名詞だと思われます。「神の見えざる手」という語感には何か無感情で機械的な印象が含まれます。この印象がアダム・スミス「弱肉強食の市場原理主義者」「格差社会を生み出した小泉改革の源流」「経団連の会長の元祖」のような人物と思わせている点があるかもしれません。しかし、アダム・スミスは営利を追及する経済学者である前に道徳哲学者でした。透徹した道徳観、人間観に裏打ちされた社会観の上に「神の見えざる手」という経済観があったことを本書では示しています。
 ジョン・ロックアダム・スミス、デイビッド・リカードなどによって古典派経済学の経済学的モデルは確立されたと思います。そのモデルは現在でも燦然と輝きながら、世界においては「サッチャリズム」「レーガノミクス」、日本においては「小泉構造改革」「TPP推進派」の思想的源流となっています。
 アダム・スミス先生の考えを端的に書くと
(1)「分業で生産」
無人島で一人で暮らすように、一人で狩りをしたり、一人で魚を釣ったり、一人で果実を探したり、一人で木を切って家を建てるより、一人一人仕事を特化したほうが効率的であり、生産性をあげることが出来る。
(2)「生産物を市場で交換」
その一人一人が特化して作り上げた生産物を市場で貨幣を通して交換することが、富を多くの人に行き渡らせるための手段として最も効率的である。故に自由市場に対して権力者は(特定の産業に便宜を図ることなく)多くの規制をかけないほうが望ましい。
(3)「(神の)見えざる手」
「分業で生産」「生産物を市場で交換」このメカニズムが最大限に発揮されたときに社会全体へ富が行き渡り、最下層の人の生活をボトムアップすることが可能になる。



 古典派経済学の骨子はこの(1)(2)(3)になるかと思います。確かにこの思想こそが現代社会の豊かさを生み出した源泉だと思います。俺は今、酒を飲みながらメロンを食いながらパソコンでこの文章を書いていますが、酒を作ったのもメロンを作ったのもパソコンを作ったのも俺ではありません。ありとあらゆる人の労働によって生まれた果実を俺が市場を通して金で購入したからこそ実現できたことです。俺が酒を飲みながらブログを書けていること、現代社会にこれほどの豊かさをもたらす一助となる理論を作ったアダム・スミス先生と古典派経済学に対して拍手を送りたい!さらにアダム・スミスのすごいところは経済のメカニズムを理論化しただけではなく、このメカニズムを作る基礎は「道徳」であることを明言していたことです。
(4)「共感」
(端的に書くと)社会は他人を思いやる道徳によって成り立っている。不正を行うことなく市場で公平に競争することによって社会の富を増大させることが出来る。
(5)「心の平静と小さな幸せ」
 アダム・スミスの真骨頂。それは「経済発展とは別に重要なのは心の平静と小さな幸せを見つけることだ。」という思想だと思います。深い道徳観、人間観、社会観を持った道徳哲学者アダムスミスがその核心に持っていたのは実に青臭い、しかし確かな信念だと俺は思います。

 あまりにも透徹した経済思想を持っていたアダム・スミスはその論理性が故に「テクニカルな経済学者」「元祖・経団連」として見られがちですが、「道徳哲学者」としてのアダム・スミスにこそ、現代の我々が学ぶべきものが沢山あるのかと思います。