蟻の社会科学

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少子高齢化社会を考える。その4〜非婚社会と青い鳥症候群。効用最大化心理と最適化行動〜

効用とは・・・ミクロ経済学の用語で「満足度」のようなもの
最適化行動とは・・・ミクロ経済学の用語で「効用」が最大になるように行動すること<>/fieldset>
はじめに 
 前回の「少子高齢化社会を考える。その3」で少し考察した「非婚化」について今回は詳しく考察してみます。「結婚と出産に関する全国調査−出生動向基本調査ー」(国立社会保障・人口問題研究所)のデータをベースとして考えます。
 非婚化については語りつくされた観はあります。まして考え方が多様化した現代社会ですので、結婚することが「いいことだ」とか「悪いことだ」とかの価値判断はさておき、とにかく非婚化の背景をもう一度俺なりに練ってみます。(江戸時代もさほど皆婚率は高くありませんでしたが、近代以前の社会の非婚と現代社会の非婚は中身が全く違いますので、この記事では近現代日本社会の非婚について取り扱います。)
非婚化の要因
 「なぜ非婚化が進むのか?」を考えるときに「なぜ昔は皆婚社会だったのか?」を最初に考えたいと思います。皆婚社会の要因はたくさんありますがとりあえず4つ。
①皆婚社会の背景
1.子供を産むため
 6月29日の「少子高齢化社会を考える。その3」でも書きましたが、近代化以前の社会においては子供とは労働力であり、将来はお金を稼いでくれる財産であり、同時に愛しい存在だったと思われます。特に農村においては子供は正に労働力そのものだったと思われます。労働力を確保するために、即ち「子供を産むために結婚した」とシンプルな理由が考えられます。
2.結婚したほうが家事等が楽だった
 電化製品が普及した現代においても家事というものは結構大変だと思います。まして電化製品など存在しない社会においては結婚して二人で家事、及び子育てを行ったほうが楽だったというシンプルな理由があると思われます。
3.娯楽が無かった
 現代のようにテレビも映画も漫画も何も無い社会では「夫婦生活」が大きな娯楽だったと思われます。結婚の理由としてこれまたシンプルかつ力強い要素があったと思われます。また子供の成長を見守ることが最大の娯楽、幸せだったのかも知れません。
4.結婚することが当たり前だった
 上記の1〜3を背景として社会の中では「結婚することが当たり前」という社会心理が存在していました。そのような社会の中で「結婚をしない」という選択肢は存在せず、「結婚することが当たり前の世の中だからみんな結婚した。」というシンプルな要因を導けると思います。
上記の1〜4を簡単なモデル図にしてみました。

②非婚社会の背景と非婚化のスタート地点


「結婚と出産に関する全国調査−出生動向基本調査ー」(国立社会保障・人口問題研究所)より引用

 いつから「非婚社会が始まったのか?」を定義するときに一つのポイントとして「1970年頃」と思われます。
①「子供を産む強い理由がなくなり完結出生次数は現在と変わらない2.1〜2.2になった」
②「伝統的社会圧力の産物であるお見合い結婚より恋愛結婚の割合が増えた」
この時期が「非婚社会のスタート地点」なのではないかと思われます。
 1945年の敗戦までは旧来の伝統が色濃く残る封建的な日本社会でしたが、1945年の敗戦後に西洋発の「自由民主主義社会」が日本に生まれました。伝統から解き放たれ、自由を得た社会の中で「自由恋愛」の概念が急速に発展していきました。同時に経済成長する、伝統的心理圧力が薄れつつある社会の中では「自由に恋愛できるのだから、出来るだけ条件がいい人と結婚したい」という「効用最大化心理」と「最適化行動」も急速に発展したと推定されます。1970年頃に「結婚」は「伝統的社会からの影響下での結婚」から開放され「自由社会での自由な結婚」へ転換したと思われます。そして伝統的社会の圧力から開放され過ぎた男女が結びつきを失った影響が出始めたのが1980年代後半からと思われます。
 国立社会保障・人口問題研究所のデータ(2009)によると
男性の生涯未婚率
〜1985年頃 1〜3%
 1990年  6%
 2005年  16%
 2030年(男性推計)29%(女性推計)23%


③非婚社会の基礎的要因
 そのような社会の中で上記の皆婚社会の4条件が急速に失われましたと思われます。
1.子供を産む強い理由が無くなった。
 「少子高齢化社会を考える。その3」でも書きましたが子供を産む強い理由が失われた社会では「子は鎹(かすがい)」と言ったような男女を繋ぎ止める要因が弱体化していくと思われます。
2. 家電製品やサービス業の発展により一人でも楽に暮らせるようになった
 家電の発達、外食産業などのサービス業の発展、及び収入の増加は「夫婦や家族で暮らさなければ日常生活が困難な時代」から「一人でも暮らせる時代」へ社会を変容させていきます。
3.娯楽の多様化、ライフスタイルの多様化
 「夫婦生活」や「子供の成長」以外に、ありとあらゆるエンターテイメントが出現した社会の中で相対的に「結婚」への関心が薄れていくと思われます。 
4.結婚することが当たり前ではなくなった
 伝統から解放された自由社会の中では「結婚をすることが当たり前」という風潮は徐々に薄れていきますが、それが非婚化の大きな社会心理的要因です。
 上記の1〜4をまた簡単なモデル図にしてみます。


④非婚社会の発展的要因
 1980年代半ばまでは伝統的結婚社会から開放された自由恋愛社会においても比較的高い結婚率でしたが、それ以降(〜現在、未来)急速に生涯未婚率が上昇しています。その背景を考察してみます。
1.競争社会
 戦後の経済成長する社会の中での「受験戦争」との言葉で表されるように、幼少の頃から「競争」という概念の中でアイデンティティを育んできた世代の心に無意識のうちに「勝ち組」「負け組」というものが刻み込まれると思われます。
2.恋愛における二極化
 「勝ち組」「負け組」という概念を心に刻み込まれた世代は二極化していきます。社会的心理圧力が無い自由恋愛社会においてはまさに市場原理主義のごとく「恋愛強者」は恋愛強者同士で恋愛し、結婚します。社会の中に結婚する強い理由が存在しないので「恋愛弱者」は恋愛も結婚もしないままとなってしまう傾向があります。
3.出会いの多様化と効用最大化心理
 「狭い社会(地域共同体や企業共同体)」の中で結婚していた伝統的圧力がある時代とは変わり、出会いが多様化した伝統的圧力が全く存在しない現代社会の中で「もっといい人と出会えるのではないか」「自由に恋愛できるのだから、出来るだけ条件がいい人と結婚したい」との希望、「恋愛の効用最大化心理」と「最適化行動」を人にもたらします。アンケートで「結婚をしない理由」の1位「適当な人がいない」というのは、裏返せば「もっといい相手が見つかる可能性があるのではないか?」ということになると思います。(いわゆる青い鳥症候群
 今でも日本の社会心理において伝統的社会の名残を残しながら「男性が女性をリードするものだ」との考え方が無意識に根強く残っているのではないだろうかと思っています。そのような社会の中で収入が伸び悩む現在は、「こんな給料じゃ結婚なんてできないなぁ・・・」と男性をますます結婚に対して萎縮させているのではないだろうかと推定されます。結婚する強い理由も、結婚への社会的心理圧力もどんどん無くなっていく社会の中で、男性は萎縮して、女性(男性も)は青い鳥を求める傾向が強くなり、非婚化はますます加速するでしょう。
まとめ
 皆婚社会においては「結婚する強い理由」がありました。その強い理由があった故に「結婚して当然」という社会心理が強く存在していました。時代を経てその「結婚をする強い理由」が失われたと同時に「結婚して当然」という社会心理も薄らいでいったことが非婚化を生み出しています。
 非婚社会を語るとき「若者の経済的困窮」を第一前提とし、それに伴う形で「男も女もみんな高望みするようになったんだ」というような意見をよく聞きます。しかし「社会的心理圧力がある伝統的社会」から「社会的心理圧力が無い自由社会」への変遷の中で「人が高望みするようになった」というより「人が高望みさせられる社会」へ「社会が変わった」と考える方が妥当ではないかと思います。経済的要因も非婚化を加速させる大きな要因であることは確実ですが、このような社会心理の変化にもスポットを当てなければいけないのではないでしょうか。
 人と人とを繋ぎ止める社会的心理圧力が弱まって「人が高望みをさせられる社会」「市場原理主義的恋愛」というのが非婚化を促進させているのであれば、非婚化を止めることは出来ないであろうというのが俺の結論です。