蟻の社会科学

自由に生きるため、この世界を知ることを目的としたブログです。ビッグヒストリーを縦軸に、リベラルアーツを横軸に、システム思考を最適化ツールとして。興味を持った方はガイドラインからどうぞ。

第○○章 論理的思考 その5 ~説明について~

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 この章では「説明」について検討したいと思います。人に何かを説明するという行為は、論理的思考力、コミュニケーション力など、知的能力が最も試される分野だと思います。
 上記のモデル図を例に、「野球」というものを全く知らない人に野球を説明するには、どう説明すればいいかを考えます。相手が野球というものを全く知らないのであれば、「ピッチャーが・・・」「ホームランが・・・」「ダブルプレーが・・・」など、具体的なことから説明しても通じません。
 相手が野球を全く知らないのであれば、まず最初に「これはスポーツである。」という最も抽象的で大きな概念から説明する必要があります。最も大きな前提を最初に説明することなく説明を始めても、相手の理解があやふやなまま話が進んでしまう可能性があります。まず最初に「スポーツである。」という抽象的概念を説明し、その後は「2チームで戦う。」「1チーム9人である。」など、少しずつ具体的に説明を進めていくことで、比較的スムーズに理解を得られるのではないかと思います。

 説明において重要なのは下記の三点かと思います。

・(状況を考えながら)相手が持っている知識量や理解度を推し量る。
・それに応じて、相手が理解するのに必要な抽象度を考えて、抽象的概念から具体例へ順序立てて説明する。
・5W1H、前提、結論、目的などをあやふやにすることなく、明確にすることを意識して説明を行う。

 第10章の「非論理的思考」の項目でも説明しましたが、人は具体的なことを、思いついた順に、順不同で説明を始めてしまうという習性があるようです。説明を行うときはそのことを認識しつつ、上記の三点を意識しながら行うようにするといいかと思います。
 この記事でも人間の思考という極めて複雑な事象を、「システム0、1、2」と抽象的な概念に置き換えて説明していますが、うまく説明できているか自信はありません(笑)

第20章 前頭葉

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 この章では脳の前方に位置する前頭葉前頭前野)の概要について検討したいと思います。二重過程モデルのシステム2についての、さらに詳細な説明となります。
 前頭葉はシステム2の最高意思決定機関であり、システム0、システム1から発生する思考を統率する脳の中央指令部です。オーケストラの指揮者、大統領、社長などのアナロジーでよく例えられます。
 
・オーケストラの指揮者(前頭葉、システム2)と演奏者達(システム0、1)
・大統領(前頭葉、システム2)と行政機関の一般職員(システム0、1)
・会社の社長、取締役会(前頭葉、システム2)と社員(システム0、1)

 前頭葉は20世紀の中盤~後半までは沈黙の脳とも呼ばれ、機能がいまいち不明でした。と言うのも、前頭葉を損傷したり手術で切除しても、一定の認知機能は保たれ、話したり、記憶したり、計算したり、認識したりすることは可能なので、前頭葉が持つ機能が何なのか正確には特定されていませんでした。(精神疾患を治療するという名目で、機能がよくわからない前頭葉をとりあえず切除してみようというロボトミー手術が20世紀の中盤まで世界中で行われていました。)
 その後、前頭葉が持つ複雑な機能が解明されました。上記のモデル図を見てのとおり、前頭葉は複数の機能を同時にこなしています。「全体像を想像し、目標を立て、計画に沿って認知技能を調整しながら実行し、その後検証する。」というのがメインの機能であり、同時に、短期の記憶、知識のサーチエンジン、意欲、メタ認知、感情の制御、社会的成熟性なども担っています。
 オーケストラに指揮者がいなくても、それぞれの楽器の演奏者は音を出すことが出来ます。大統領がいなくても、一般職員は自らの仕事を行うことは可能です。社長がいなくても、社員は仕事を行うことは可能です。しかし、オーケストラに指揮者がいなければ、統率が取れた演奏を行うことはまず出来ません。大統領や社長がいなければ、短期的には問題は無くても、中長期的には組織が目指す目標や方向が定まらず、やがて組織はバラバラになってしまう可能性が高いでしょう。
 同じように前頭葉が損傷していたり、機能が弱いと、話したり、記憶したり、計算したり、認識するという認知機能をある程度保ちつつも、「全体像を想像し、目標と計画を立てて、実行し、検証する。」という一連のプロセスをスムーズに行うことが出来ずに、システム0、1から上がってくる衝動を、思いつきや気まぐれのままに、協調性もないままに、順不同で、支離滅裂に行ってしまうことになります。
 前頭葉を損傷した人物の具体例として、1800年代のアメリカ人でフィニアス・ゲージという人物を紹介します。ゲージは鉄道工事の現場監督として、現場の気性の荒い作業者を束ねる非常に人望のある人物でした。人柄、責任感、協調性、計画力、実行力、など申し分の無い人物でしたが、ある日、工事中の爆発事故で、鉄の棒が左目から前頭葉を貫通する怪我を負ってしまいました。一命は取り留めたものの、その後のゲージは性格が大きく変わってしまい、移り気で、行き当たりばったりに行動し、感情の起伏が激しく、協調性も無く、下品な悪態をつく人物になってしまったそうです。また、ゲージが自分の性格が変わってしまったことを認識(メタ認知)している様子が全く無かったという点も、注目すべき重要な点かと思います。文献ではゲージの例以外にも、前頭葉の脳内出血により行動意欲が大幅に低下して、法律の知識は失っていないのに仕事を行えなくなった弁護士や、普通に会話は出来るのに、順序立てて行動を行うことが全く出来なくなった人物など、様々な症状が紹介されています。これらの例から、前頭葉は実行機能、感情の抑制、社会的協調性など、複数の機能を同時に担う非常に高度で複雑な領域であることがわかります。
 人類の進化という側面からみると、前頭葉は脳の中で一番最後に進化、発達した領域です。また、一人の人間の成長という観点から見ても、前頭葉は最も成長が遅く、20代前半でようやく成長が終了すると言われています。進化や成長が遅いということは、逆に退化が早いということでもあり、40代から前頭葉が萎縮していくと言われています。高齢者が感情的になるのも、前頭葉の萎縮に関係して、感情の制御能力が落ちていると推測されます。また、アルコールの影響により、一番最初に機能が落ちるのも前頭葉です。
 このように前頭葉は非常に複雑な機能を担う領域であり、また加齢や飲酒や薬物の影響を受けやすく脆い領域でもあります。しかし、人間の脳の可塑性(柔軟性)は非常に高いので、30代40代50代になっても読書をしたり、ものをしっかりと考えることで、前頭葉の機能を維持し、成長させ高めていくことも可能です。私たちの意思決定は前頭葉が担っているということを認識し、なるべく機能が落ちないように心がけて行きたいものです。

【78冊目】人口減少社会の未来学 内田樹編

人口減少社会の未来学

人口減少社会の未来学

 このブログは素人が社会について考える社会科学風味のブログであります。現代社会を、経済学や歴史哲学を横断しながら、俯瞰、敷衍するブログなのですが、近年は認知科学の記事ばかりで社会についての記事が疎かになっています。今回は私が社会を考える上での骨子となっている人口減少について、本書を参考に久しぶりに記述したいと思います。
 本書は9人の有識者の寄稿を元に内田樹さんによって編集されています。社会学系の学者だけではなく、建築学者や経済学者やコラムニストなど様々な有識者の意見をまとめています。これからの社会を考えるときには社会学者の視点だけではなく、様々な分野の人の意見を多角的に参考にして考えないといけないということを改めて認識しました。
 
 まずはこれから21世紀の日本社会が向かう人口減少の実態について考えたいと思います。様々な推計がありますが、これから約80年後の2100年には日本の人口は約5000~6000万人と推計されています。現在の1億2000万人から、これからの80年で6000万人~7000万人の減少する見込みです。80年でこれほどの人口が減少するというのは、人類史上どの国も経験したことが無い未曾有の事態です。産経新聞では少子高齢化を「静かな有事」と表現していましたが、これは有事どころではなく「静かな惨事」と表現することが出来るぐらいの事態です。地方の小都市は限界都市として都市機能を維持できなくなるところも出てくるでしょう。その他、インフラの老朽化や労働力の減少による様々なサービスの低下など、予測することが出来ない事態が次々と起こると思われます。
 このような惨事がそれほど遠くない未来にまで迫っている、いや、もはや目の前にまで迫っているのに、社会全体でその認識が希薄であることは不思議であると言わざるを得ません。人間は基本的には、嫌なこと、自分の考えと違うこと、知りたくないことは無視して、自分が好きなこと、考えたいことだけを考える傾向があります。このような切迫した事態であるにも関わらず、どこかで社会全体が希望的観測にすがっている面があるのは否定できないのではないでしょうか。「子供が減少したのは景気が悪くて若者が貧困だからであり、景気が回復して経済が成長すれば少子化も解決する。」という素朴で単純な意見や、「国が婚活対策や少子化支援を行っていればいずれ少子化は解決する。」というピュアで牧歌的な意見が社会の中で一定の幅を利かせている点を見るだけでも、社会の中でまだまだこの来るべき惨事への認識が薄いと言えると思います。(例えば、景気が良くなれば出生率が回復すると主張する人は、戦後の高度経済成長に歩調を合わせるように出生率が右肩下がりで落ち込んでいったという事実や、先進国の出生率が低く後進国出生率が高いという事実に対して、どのような理論で景気や経済成長と出生率の因果関係を証明するのだろうか?)
 まず認識しておかなければいけないのは、どのような対策を行ったとしても、今後80年で6000万人~7000万人が減少するであろうという事実です。景気対策少子化対策、移民推進、その他諸々、どのような対策を行ったとしても、この現実を大きく変えることは出来ないであろうということを、まず認識しなければいけないのではないかと思います。この事実から目を背け、希望的観測にすがっている限り、この静かな惨事に対する有効な対策は打てないのではないかと思います。
 また、この少子高齢化による静かな惨事は日本だけに限ったことではありません。この問題の最先端を日本は走っていますが、やがて多くの先進国がこの問題に突入していきます。この問題は政治が悪いとか、経済や景気の問題ではないという認識が重要かと思います。経済成長を成し遂げた先進国全てに共通している現象なのですから、恐らく、ルネッサンスから今日までの近代社会から、現在社会の成立までの社会構造の中に内包されている複合的な問題であると考えることが妥当かと思います。
 考えたくないこと、知りたくないことから目を背け、その問題の原因を政治や経済問題に還元し、その政治問題や経済問題さえ解決すれば何もかも好転するかのような社会的風潮から一歩身を引いて、この社会について、この問題について、ひとりひとりがしっかりと考えなければいけないのではないかと思います。

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因果のABCモデル

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 物事の概要というのは A→B、またはA→B→Cという単純なモデルで、ある程度までは考えることが出来るのではないかと思う。いや、むしろ最初はこれぐらい単純なモデルから考え始めるほうがわかりやすくていい。このモデルに7W1Hや原因、根拠、手段、目的などを付け足していけば、問題の解決などを検討するときのたたき台を作ることが出来ると思う。
 頭の中だけで考えようとすると様々な要素が渾然一体となってしまいわけがわからなくなるので、とにかく書き出すことが重要だ。

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money as debt


お金ができる仕組み。銀行の詐欺システム money as debt (日本語字幕版)

 この動画が絶対的な真実とは言えないとは思うが、お金とは何かを考えるときに参考になる動画だと思う。池上彰さんの経済の本とかこういう動画を学校の授業に取り入れればいいのではないかと思う。

【77冊目】哲学がわかる因果性

哲学がわかる 因果性 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

哲学がわかる 因果性 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

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 私たちがこの世界を認識するための最も基本的なフレームは因果関係です。私たちの脳は先天的に、因果関係をうまく把握できるようにカスタマイズされています。突き詰めると量子力学レベルでは因果性というものが成り立たなくなるようですが、私たちが生きる日常生活レベルでは、因果関係の把握が最も基本的かつ重要な物事の認識方法となるでしょう。本書は初学者にも理解できるように、因果について広く哲学的に検討しています。
 A→B→C という単純なモデルでさえ哲学的に様々な方向から検討することが可能であることを教えてくれます。18世紀の哲学者デビッド・ヒュームの経験主義哲学を叩き台として、因果性と相関性、物理主義と関係主義、還元主義と創発主義、必然性と偶然性、決定論と非決定論的因果性、傾向性主義、半事実的依存性、必要条件と十分条件など、因果というものをありとあらゆる視点から説明してくれます。
 人はこの世界が因果によって成り立っているということ自体、特に明瞭には意識せず、なんとなく生きているのかもしれませんが、因果関係の把握こそが全ての基礎となるということを明瞭に意識して考えるときに、本書はその道しるべとなると思います。